先日、2026年10月16日と17日に開催された第18回アジア養蜂大会に参加してきました。そこで学んだ在来ミツバチのことを紹介したいと思います。

発表者の一人が、こんな地図を紹介していました。

世界のミツバチの種と亜種の自然分布図
Roy Francis『Honey Bees: Native World Distribution』(v6.2、2025年)、CC BY-NC-SA 4.0。大きな画像は作者のサイトで見られます。

Roy Francis 氏が作った素晴らしい地図で、ミツバチのすべての種と亜種の自然分布が描かれています。ちなみに私は、日本でニホンミツバチ(Apis cerana japonica)を飼っています。

生産性が高いため、世界の養蜂のほとんどではイタリアミツバチ(Apis mellifera ligustica)系統の品種が使われています。でも、ヨーロッパ、アフリカ、中東、中央アジアに分布するたくさんの亜種のセイヨウミツバチの中で、イタリアミツバチは一亜種にすぎません。日本も例外ではなく、京都産業大学の研究によると、日本で飼われているセイヨウミツバチはほぼすべてイタリアミツバチ系統だそうです。地図を見ると、アジアには多様なミツバチがいることがわかります。トウヨウミツバチ、開放巣を作るオオミツバチ、小さなコミツバチなどです。ニホンミツバチは、地図の右上の端にいるトウヨウミツバチの亜種です。

主な種と亜種をまとめておきます。

学名 和名 英名
Apis ミツバチ亜属 Cavity-nesting honey bees
Apis mellifera セイヨウミツバチ Western honey bee
 A. m. mellifera  —  Black bee
 A. m. ligustica  イタリアミツバチ  Italian honey bee
 A. m. jemenitica  —  Arabian honey bee
Apis cerana トウヨウミツバチ Eastern honey bee
 A. c. cerana  チュウカミツバチ  Eastern honey bee
 A. c. indica  インドミツバチ  Indian honey bee
 A. c. skorikovi  —  Himalayan honey bee
 A. c. japonica  ニホンミツバチ  Japanese honey bee
Megapis オオミツバチ亜属 Giant honey bees
Apis dorsata オオミツバチ Giant honey bee
Apis laboriosa ヒマラヤオオミツバチ Giant Himalayan honey bee
Micrapis コミツバチ亜属 Dwarf honey bees
Apis florea コミツバチ Red dwarf honey bee
Apis andreniformis クロコミツバチ Black dwarf honey bee

地図ではインドミツバチを独立種 Apis indica としていますが、ここではトウヨウミツバチの亜種として扱っています。また、A. c. cerana には定着した和名がないので、「チュウカミツバチ」はこちらで付けた呼び名です。中国だけでなく、アジア各地に分布しています。

A. m. mellifera は色の黒いセイヨウミツバチで、英語では「black bee」と呼ばれています。本来の分布域である北ヨーロッパや西ヨーロッパでも、今ではそのほとんどがイタリアミツバチなど、よそから持ち込まれたミツバチに置き換わってしまいました。セイヨウミツバチの中でも、在来のミツバチは危機にあるのです。残念ながら、養蜂家にとっては生産性の高いミツバチを使うほうがお得なので、在来のミツバチが犠牲になってしまいます。

アジアでも同じことが起きています。大会で見た、Alwan Honey Museum & Research Centre の Syed Mohammed Mainul Anwar 氏によるバングラデシュの養蜂についてのポスターに、うまいまとめ方がありました。トウヨウミツバチ(Apis cerana)のはちみつは質、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)のはちみつは量、というものです。

バングラデシュのミツバチの種とはちみつを比べたポスターの一部
Syed Mohammed Mainul Anwar 氏(Alwan Honey Museum & Research Centre)によるポスターの一部

ご本人に話を聞いてみると、面白い考えを聞かせてくれました。はちみつは主食ではないので、たくさんはいらない。米や小麦なら生産性が大事だけれど、はちみつに生産性が必要だろうか。一日にスプーン一杯も食べれば十分だ、というのです。

バングラデシュやネパールには、在来ミツバチのはちみつの市場もあるようです。現地ではトウヨウミツバチのはちみつは質が良いとされ、高く売れるので、生産性の低さを補えます。そのため、国内向けのはちみつを作る養蜂家はトウヨウミツバチを選び、輸出向けにはセイヨウミツバチを使う、という使い分けになっています。

ちなみに EU では、はちみつを「Apis mellifera が作るもの」と定義しています。そのため、トウヨウミツバチやオオミツバチ、コミツバチなど、ほかのミツバチのはちみつは、EU でははちみつとして売ることすらできません。ヨーロッパの人がアジアの在来ミツバチのはちみつを味わうには、ほぼ現地まで行くしかないのです。面白いですよね。

在来ミツバチの役割は、養蜂だけにとどまりません。大会では、Kedar Devkota 氏が、今年 Nature に掲載された共著論文について発表していました。Kedar 氏の発表がなければ、この研究を知ることはありませんでした。ありがとうございます!研究チームはネパールのジュムラ郡にある10の村で、776人の食事、作物の収穫量と収入、そしてどの昆虫がどの作物を訪れたかを1年間記録しました。

その結果、昆虫による送粉が、農業収入の44%と、ビタミンA、葉酸、ビタミンEの摂取量の20%以上を直接支えていることがわかりました。種別に見ると、最も貢献していたのは在来のトウヨウミツバチ(Apis cerana)で、摂取しているビタミンAの約7%はこのハチの送粉のおかげでした。

野生植物、送粉者、作物、栄養素のつながりを示す図
ジュムラの野生植物から送粉者、作物、栄養素へのつながり。Timberlake et al. (2026) の Fig. 2、CC BY 4.0。

図は左から、送粉者のえさになる野生植物、作物の花粉を運ぶ送粉者、作物、そして人が作物から得る栄養素の順に並んでいます。真ん中の大きな赤い棒が Apis cerana です。

気になるのは、これらの村の養蜂家が、2021年から2030年までに Apis cerana が3分の1減ると見込んでいることです。在来のハチはセイヨウミツバチの陰に隠れがちですが、人がどれだけ在来のハチに頼っているかを数字で示してくれた研究だと思います。

「ハチを守ろう」と言うとき、本当に守らなければならないのは「在来」のハチや送粉昆虫なのです。日本でも送粉者がわかる上記のような図が作りたいところです。